電話中に弟の脳血栓に気付く
気付きにくい一過性脳虚血発作だが、本人のことをよく知る肉親は注意していれば初期症状を見極めることができる。
以下は私自身の経験だが、ちょうど1年前、弟と電話で話している最中に脳血栓の初期症状に気付き、即座に連絡したため後遺症が出ることもなかった。参考のため、その時の状況を報告してみよう。
その日は8月11日土曜日の午後だった。翌日が日曜日。そして月曜日から盆に入るため医師不足の懸念もあり、対応が遅れれば危険だったに違いない。
電話で会話中に弟の言葉が数回詰まり、返事が聞こえなくなった。「元気がないけど調子悪いのか。検査結果で異常が見つかったのか」
10日余り前に膵臓ガンの手術をしたので術後の状態が気になり、そう尋ねた。
返ってきたのは「元気を・・・」「元気を・・・」という言葉だった。
もしかして、泣いているのかもと思い「泣いているのか、それとも頭では言葉が浮かんでいるのに口で言葉が出ないのか」と尋ねると、「・・・。言葉が出ない。また後で電話する」と言って切れた。
脳血栓だ。そう確信した私はすぐ弟嫁に、病院に行き医師に連絡するようにと告げた。それから30分後、病院に行った弟嫁の剣幕に驚いた病院関係者が慌ただしく動き、即座に点滴を開始、3日間絶対安静処置を取り、弟に後遺症が残ることはなかった。
私との電話を切った30分後には弟は正常に話ができる状態に戻っており、弟自身も看護師も「いや、大丈夫ですよ。変わったところはないし」という感じだったらしい。
ところが弟嫁が「義兄さんが脳血栓だと言って怒っているんです。すぐ先生に診てもらって下さい」と、看護師にそれこそやかましく言い、その剣幕に慌てて医師に連絡し、それを聞いた医師は脳血栓と判断し、バタバタと動いて処置をしたというわけだ。
ラクナ梗塞は楽どころか危険
後日、家族からの連絡によると、やはり脳梗塞を起こしていたらしい。本人は「ラクナ梗塞と言われた」と、あまり気にしていなかった風だが、この時はたまたまラッキーな状態が重なったために助かっただけだ。
まず、電話中に症状が現れ、電話の相手が私だったこと。
次に、私に脳梗塞に関する若干の知識があったこと。
相手のことをよく知っていなければわずかな異常に気付くことができない。ましてや電話である。声だけで判断しなければならないので、それが異常かどうかさえ分かりにくい。恐らく他の人間だったら弟の異常に気付かなかったはずだ。
3つ目に、弟嫁がたまたま自宅にいて、連絡が付いたこと。というのは共働きで、弟嫁は土曜日も職場に行っていることが多く、仕事中は一切電話、メールに出ないからだ。そして帰宅時間は大体8時頃。それからすぐ病院に駆け付けてもすでに発症から7時間経過しているし、翌朝まで延ばしていれば脳血栓はその後も見逃されていただろうと思う。
最後に、何事につけ反応が鈍く、即行動に移すことがない私がこの時ばかりは即行動に移したことだ。
ラクナ梗塞というのは脳内の細い動脈に直径1.5cm以下の梗塞ができることで、脳梗塞の半数近くを占めている。だが、「ラクナ梗塞でした」などと専門用語で言われると、脳梗塞にも入らない「楽な」梗塞と思うかもしれないが、それは大間違い。「ラクナ」は英語表記で「Lacunar」。フランス語の「湖」を意味する語から来ている。脳の深い所に生じた小さな湖という意味だ。
専門家は専門用語を気軽に使い、そのことで大した症状ではないという風に思わせる傾向がどの分野でもあるが、こうした専門用語に騙されてはいけない。
医師が症状を軽く表現する場合、2つの意味がある。
1つは患者が受ける精神的ダメージを小さくし、希望を持たせようとする場合。
もう1つは彼らにとって技術的に難しい病気ではない場合。
ただ、いつの時代も、どの分野でも、ミスは簡単な所、初歩的な所で起きる。
夫婦は同じ部屋で寝よう
さあ、寝室を別にしている夫婦は今日から一緒に寝よう。「なに考えているの、あなた」「なんだ、どうしたお前」と相手から怪訝な目で見られ、非難めいた口調で言われようと、中高年夫婦は寝室を一つにしよう。
一番いいのは同じベッドか一つ布団で、手を繋いで寝ること。それは却って寝苦しく、逆効果と言われる向きはベッドや布団は別々にしても、同じ部屋で寝ること。それが助かる(相手を助ける)道なのだから。それ以上のコミュニケーションはご随意に。
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